
ライフサイエンスの研究現場では長らく、細胞や組織サンプルの保存に「冷凍保存」が最も使用されてきました。冷凍保存では長期間の保管が可能ですが、冷凍時に使用する培地(凍結保存液)に添加する異種由来成分や添加物(例.FBSやDMSO)、凍結のダメージによる生存率が課題となります。また最適な冷凍方法が細胞によって異なるケースがあったり(例.緩慢凍結法やガラス化凍結法)、そもそも凍結保存が困難な細胞もあるなど、テクニックや細胞ごとの知識を習得する必要があります。
サンプルを凍結せずに輸送や保存できれば、これらの課題を一挙に解決できるほか、実験品質の向上と時間・コストの削減につなげられる可能性が高まります。
イギリス・Life Science Production (LSP)社製「T-STORE」シリーズは、細胞/組織サンプルの室温・冷蔵保存を簡単かつ安全に行えるようにデザインされた保存溶液で、株式会社サンフコが販売しています。
細胞・組織の保存と輸送が圧倒的にラクになる! LSP社のT-STORE
T-STOREとは?
T-STORE (Tissue Store)は、哺乳類組織サンプルの完全性を維持し、安定な保管と輸送を行うためにデザインされた培地です。堅牢な緩衝システムを利用しており、幅広い温度帯(+2℃~+37℃)での保存に対応しています。T-STOREを用いた組織保存では、これまでのプロトコルよりも保存と輸送が非常に容易となります。
ステップ | 従来法 | T-STOREによる方法 |
---|---|---|
試料の採取と 迅速な処理 | バイオプシーサンプルを乾燥/ 生理食塩水に浸漬/ガーゼで包む/ ホルマリン固定 | バイオプシーサンプルを必要量の T-STOREに、4℃で浸漬するだけ |
輸送 | 瞬間凍結、ホルマリン固定パラフィン包埋処理、または新鮮組織で送付。長時間の輸送は新鮮組織の劣化が 起こる可能性 | 4℃または室温で送付。 最大72時間、組織を維持可能 |
プロセシング | 新鮮組織はすぐに使用できるが、 入手が難しければ瞬間凍結または ホルマリン固定パラフィン包埋 サンプルに限られる | 様々なダウンストリーム解析に最適 |
解析 | プロセシングの制限から、 分析方法の選択肢が限られる | 様々な組織と分析方法に最適 |
サンプルへの影響 | 組織サンプルの分子プロファイルに 変化が起こる可能性 | 組織の形態学的および 分子構造を維持 |
【表1】組織サンプル保存における、従来法とT-STOREによる保存法の比較
T-STOREの利点は?
組織・細胞サンプルを安全・安心して室温や冷蔵保存していただけるよう、T-STOREは以下の特長を持った製品となっています。
- Ready-to-use:使用時の希釈が不要で、使いやすいフォーマットです。
- Chemically Defined:化学的組成が明らかです。
- Xeno-free:血清や動物/ヒトのタンパク質を含まないため、再生医療研究に適しています。
- DMSO-free:DMSOが持つ細胞毒性など、サンプルへの影響を抑えることができます。
- EU規定のエンドトキシンレベル(≤ 1.0 EU/mL)に準拠
- 長い使用期限:抗生物質を含まないT-STOREは、冷蔵保存で製造日から18ヶ月の使用期限となっています。(※抗生物質を加えた場合、使用期限は最大1ヶ月となります。)
T-STOREはホルマリンとどう違う?
古くからホルマリンは組織保存用の試薬として使用されてきました。
T-STOREとホルマリンのどちらを組織保存に使用するのが望ましいかの選択は、保存後に実施予定のダウンストリームのアプリケーションによります。
T-STOREはホルマリンと比較し、以下の利点があります。
T-STORE | ホルマリン | |
---|---|---|
保存の仕方 | 細胞を生きた状態で保存し、組織の構造も維持。そのため、フローサイトメトリーなどで細胞の分離を行う際に有用。(脾臓細胞やリンパ球など) | 固定液のため、ライブセルの実験や機能解析には不向き。 |
分子への影響 | RNAやタンパク質をインタクトな状態で維持するため、RT-PCRやウエスタンブロットでの実験に理想的。 | 核酸の分断やタンパク質のクロスリンクを引き起こすため、分子的な解析が複雑となる。 |
安全性 | 非毒性 | 発がん性物質であるホルムアルデヒドを含む。 |
アプリケーション面 | 機能解析や分子的解析が必要とされる、トランスレーショナル研究や前臨床研究に最適。 | 組織学や長期間の保存に適している。 |
なぜT-STOREではサンプルの室温・冷蔵保存が可能?
T-STOREが間質液の基本組成を模倣しているためです。輸送・保存中の組織の酸-塩基(pH)バランスを維持し、アポトーシスを含む細胞死を低減することから、冷蔵だけでなく室温での保存も可能となっています。
T-STOREで最大72時間の保存が可能!
組織サンプルの冷蔵保存では、遺伝的および組織の形態学的プロファイルを最大72時間維持できます。出荷前の品質管理でHEK細胞を使用した機能試験を行っていますが、保存から72時間後も優れた生存率とリカバリーを示しました(図1)。また、T-STOREに室温で保存したHEK細胞は、96時間後でも保管前と同様の形態と接着性を示していました。

(右)また72時間保存した後の細胞は、48時間後の優れたリカバリーを示し、1.5倍の増殖を示した。

それぞれ以下の培地・保存液で96時間、37℃・5%CO2で保存した。
(A/a)DMEM完全培地 (B/b)DMEM/HEPES (C/c)T-STORE
T-STOREで保存した細胞(C/c)は、保存前の細胞(右最上段)と同様の形態を示していた。 DMEM/HEPESで保存した細胞(B/b)は細胞の形態が変わり、接着性も失われていた。DMEM完全培地(A/a)ではオーバーグロースも見られた。
ニーズに合わせたT-STOREで、研究をサポート!
通常のT-STOREの他、インスリンフリーや抗生物質を含む製品など、バリエーションが豊富です。抗生物質も別売しています。
LSP社のT-STORE製品ラインアップ
T-STORE® Tissue Storage and Transportation Medium | 通常のT-STOREです。 | TSTORE-C | 50 mL |
TSTORE-P | 125 mL | ||
TSTORE-Y | 250 mL | ||
TSTORE-A | 500 mL | ||
TSTORE-L | 1 L | ||
T-STORE® Tissue Storage and Transportation Medium – Insulin-Free | インスリンフリーのT-STOREです。 | TSTOREIF-C | 50 mL |
TSTOREIF-P | 125 mL | ||
TSTOREIF-Y | 250 mL | ||
TSTOREIF-A | 500 mL | ||
TSTOREIF-L | 1 L | ||
T-STORE® Tissue Storage and Transportation Medium with Antibiotic (Amphotericin B and Chloramphenicol) | 抗生物質(アンホテリシンBと クロラムフェニコール) を含むT-STOREです。 | TSTORE-C-AA | 50 mL |
TSTORE-P-AA | 125 mL | ||
TSTORE-L-AA | 1 L | ||
T-STORE® Tissue Storage and Transportation Medium with Antibiotic (Amphotericin B and Chloramphenicol) – Insulin-Free | 抗生物質(アンホテリシンBと クロラムフェニコール)を含む、 インスリンフリーのT-STOREです。 | TSTOREIF-C-AA | 50 mL |
TSTOREIF-P-AA | 125 mL | ||
TSTOREIF-L-AA | 1 L | ||
T-STORE® Tissue Storage and Transportation Medium with Antibiotic (Amphotericin B and Nanomycopulitin) | 抗生物質(アンホテリシンBと ナノマイコプリチン)を含む T-STOREです。 | TSTORE-C-AN | 50 mL |
TSTORE-P-AN | 125 mL | ||
T-STORE® Tissue Storage and Transportation Medium withAntibiotic (Amphotericin B and Nanomycopulitin) – Insulin-Free | 抗生物質(アンホテリシンBと ナノマイコプリチン)を含む、 インスリンフリーのT-STOREです。 | TSTOREIF-C-AN | 50 mL |
TSTOREIF-P-AN | 125 mL |
会社情報(お問い合わせ先)
会社名 | 株式会社サンフコ |
部署名 | バイオ営業部 |
住所 | 東京都千代田区鍛冶町1-8-3神田91ビル8階 |
TEL | 03-3255-2460 |
FAX | 03-3255-0787 |
Website | https://www.sunfco.com/ |
biosolutions_sales@sunfco.com |