皆さんはどのように抗体を調べているでしょうか?
私が輸入試薬商社の試薬技術サポートに所属していた頃,良く受けていた問い合わせの一つに,「抗体調査」がありました。販売店さん,研究者の方から電話・メールやFAXで受けるのですが,実はこれが結構難しかったのです。時には,何十という因子に対する調査も…。
今回はそのような「抗体調査」依頼を受けた際,どのような基準で選んでご紹介していたかをお話したいと思います。ご自身で各社検索サイトから調査頂く際の参考になるかと思います。そして,もし調査を依頼する際に伝えて頂きたいポイントもお話します。
染色対象の因子(抗原)は何か?その性質は?
抗体を探す際,まず誰もが検索キーワードの最優先とするのは染色対象の因子(抗原)名だと思います。例えば「IL-4(interleukin-4)」など。そのキーワードを各社抗体検索サイトで入力すると製品がバーッと出てくるかと思います。そこで質問です。
「1つずつ,抗体作成に使った抗原の情報までチェックしていますか?」
実はこれ,作った抗原もそうなのですが,染色したい対象についても同様のことが言えるのです。
つまり,
『抗原として「どこの部分」を使って免疫したか』
あるいは
『染色したい対象はどのアミノ酸配列を含んでいるのか』
を意識する必要があるということです。
免疫する際の抗原に,染色したい対象のアミノ酸配列が含まれていなければ,当然染色はできません(あるいは染色できる確率が大幅に低下する)。
そのため,お問い合わせ時に特に指定が無ければ,
①「免疫に使用した抗原が,アミノ酸配列全長(あるいはできるだけ長い配列)を使用している」
②反応率を高めるため,ポリクローナル抗体を選ぶ
といった対応をしていました。実際,多くの場合で染色対象の因子名しか伝えられず,細かく「(どこからどこまでの)アミノ酸配列を含むもの」とまで指定されることはありませんでしたが,調査する方はそこまでの細かい情報を言われなければわかりませんので,「染色できない」と言ったトラブルを防止するためにも,できるだけ長いアミノ酸配列を含む抗原を使用した抗体を選んでいました。
加えて,抗体内に複数の抗体結合部位(エピトープ)を含む「ポリクローナル抗体」を中心にピックアップし,できるだけ成功率を高められるようにしていました。
ですので,もし「特定のアミノ酸配列(部位)に対して反応する抗体」をお探しの場合には,その旨を伝えて頂くか,データシートで免疫抗原の情報をしっかりと確認してください。
・「免疫に使用した抗原」の情報をデータシートできちんと確認!
・抗体調査依頼の際,抗原部位に詳しい指定がある時はあらかじめ連絡!
染めたいサンプルの動物種は何か?
染色対象の因子(抗原名)に続いて,染めたいサンプルの動物種を指定する必要があります。
例えばマウス組織の●●●を染色したいなら,「Anti-Mouse ●●●」の抗体を探します。
抗体作成に用いた抗原がその染めたいサンプルの動物種(抗原種)であればベストなのですが,必ずしも同じ動物種で作成した抗体が販売されていないこともあります。
その際は,「交差性」の欄でサンプルの動物種を指定することになります。
ここで注意しなければならないのが,「本当にその動物種への交差性が,その抗体で確認されているのか」です。製品によっては,抗原のアミノ酸配列相同性が別の動物種にも高いことから,交差反応する「可能性がある」ということで,交差性欄に動物種を入れていることがあります。必ず,データシートでの実際の染色(交差)データや,使用文献,UniProtでの相同性確認をしましょう。
検出のアプリケーション(適用)は何か?
次は,メーカー側で使用できることを確認している適用(アプリケーション)の指定です。
免疫組織染色(IHC),免疫細胞染色(IC),ウェスタンブロット(WB,western blot),フローサイトメトリー(FC),中和(Neutralization)…など,多くの選択肢があります。
ここでも注意しなければならないのが,「本当にそのアプリケーションが,その抗体で確認されているのか」です。必ず,データシートでの実際の染色データや,使用文献での確認をしましょう。
もしデータシートで,幅広い適用のデータが取られているようなら,今後の実験の拡大も考慮して,その製品を選ぶと良いでしょう。
・適用の情報をデータシートできちんと確認!実際のデータがあれば確度があがる!
Fab化抗体を上手に選ぼう!
Fab化抗体とは,抗体のFc部分を切断してFab部分(あるいはF(ab’)2部分)のみにした抗体です。
これを使うことのメリットは,「Fc受容体に結合してしまい非特異的染色が出ることを防ぐ」ことができる点です。Fc受容体は,樹状細胞,マクロファージ,B細胞,NK(ナチュラルキラー)細胞等に発現しており,通常の全長抗体を使用して染色してしまうと,ターゲットの抗原以外にこれらの細胞にも使用した抗体が結合してしまいます。
もちろん,Fc受容体ブロッキング試薬も市販されていますので,もしFab化抗体が見つからないようであれば,このようなブロッキング試薬も使用することで非特異的結合を回避できます。
特にフローサイトメトリー,免疫細胞染色,免疫組織染色に重要なポイントです。
吸収処理済み抗体も上手に選ぼう!
吸収処理済み(Absorbed・Adsorbed)抗体とは,主に2次抗体によく見られる製品で,相同性が高い動物種間での非特異的結合をしないように処理されたものです。
例えば,マウスとラットのIgGは相同性が高いです。抗マウスIgG抗体を2次抗体としてラットの切片に使用してしまうと,この抗マウスIgG抗体はラット切片中のIgG(や他のサブクラス)にも結合してしまい,バックグラウンドの増加にも繋がります。
そのような時に,「ラットの吸収処理をした」抗マウスIgG抗体を使用すると,そのようなバックグラウンド発生が回避できるのでおススメです。
組織の動物種がわかっている際の2次抗体調査の時には,このような「吸収処理済み抗体」を中心に探していました。
Knock Out (KO),Knock Down (KD) Validated抗体を上手に使おう!
特に抗体の特異性やデータの再現性を重視するのであれば,対象となるタンパク質の発現をKnock Out(KO)あるいはKnock Down(KD)した細胞での検証済み(Validated)抗体を選ぶのが最善です。
CRISPR-Cas9による遺伝子のKnock Out,あるいはshRNA/siRNAによる遺伝子のKnock Down Validated抗体を使用して,抗体の反応が見られなければ,抗体の特異性と得られたデータについての強力な根拠となるでしょう。
抗体のブランド(メーカー)
次は,抗体のブランド(メーカー)です。これは「有名なメーカーを選ぶ事をおススメ」というわけではありません。ブランド名に関わらず,例えば何か特定の分野に特化した抗体を集中的に販売している所があれば,そのブランドの製品を中心に検討してみることをおススメしているということです。
特に神経科学(Neuroscience),血管新生(Angiogenesis),シグナル伝達(Cell Signaling),リン酸化(Phosphorylation)などは,その分野を専門にしているメーカーが多く,自信を持って薦めていることがあるため,サポートも期待できます。
とは言え,細かいメーカー名まで覚えていることは困難。そういった専門メーカーからの選択を希望されているのであれば,代理店や販売店に調査依頼をする際,遠慮なくリクエストしましょう!取扱いメーカーの中から厳選してチョイスしてもらえると思います。
ちなみに,Labo Fun!で掲載している「抗体メーカー一覧」のリストでは,各メーカーが得意とする分野についても記載していますのでご利用下さい。
(例)
・特定の分野を専門にしているメーカー(ブランド)があれば,その会社の製品がおススメ!
在庫があるかどうか?
国内に在庫があるかどうかも,一つの選択ポイントです。「良く売れているから」「戦略的に」在庫を置いていたりと,様々な理由はありますが,少なくとも何かしらの理由があって在庫を持っているはずです。
まとめ
いかがでしたでしょうか。抗体選びはポイントを押さえれば,値段に惑わされず良い製品に出会うことができるでしょう。ここに挙げたポイントを意識しながら,ぜひ探してみてください!