研究での病理検査、薬理効果を見る際に、現在でも多用されている抗体での組織染色「免疫組織化学染色(免疫組織染色、Immunohistochemistry、IHC)」。組織中(組織上)の抗原に特異的に結合(反応)する抗体(Antibody)を使用し、抗体に標識した酵素(あるいは蛍光色素)と基質の反応を利用して特定の部位を「染色」することで抗原を可視化し、顕微鏡下で見られるようにすることです。
便利な手法ではありますが、コツやテクニックが必要であったり、「ちょっとした」ことで染まらなかったり,うまくいかない・・・。
私も大学4年生で研究室に所属した際になかなかうまく染まらず、所属研究室の教授にまで付き合って頂いてようやく染まった思い出があります。(今考えるとすごいですね、教授にまで付き合ってもらうとは・・・)
その後、研究用試薬機器輸入商社の試薬技術サポートとして、数多くの免疫組織化学染色(IHC)のトラブルに関する相談を受け、解決してきました。ここでは免疫組織化学染色(IHC)の「染まらない原因」「問題発生時のトラブルシューティング」「問題解決に便利な製品を紹介」について取り上げたいと思います。
また、あらかじめこのような「失敗例」「コツ」を知っておくことで、免疫組織染色初心者の方はトラブル回避の役に立つかと思います。
長文となりますので、「必要だ」と思われる部分について特にご注目下さい。(トップに戻る場合は、画面右下の「^」マークを押してください
そもそも「なぜ染まらない」「トラブルが起きる」か?
「染まらない原因」「トラブルが生じる原因」としては大きく下記の3つに分かれます。トラブルシューティングにあたっては、それぞれにおけるポイントを一つ一つ確認していくことが重要です。
- サンプル(試料・組織)の問題(処理法含む)
- 抗体の問題
- 関連試薬の問題
それでは、ここから一つずつ確認していきましょう。
サンプル(試料・組織)の問題(処理法含む)
まずは使用しているサンプルが、問題なく処理や前処理されてきたのか見てみましょう。ここに問題があった場合は、時にサンプルの採取からやり直しという大きな手間となってしまいます。今後の実験系組み立てにあたり、サンプル採取は慎重に行いましょう。
(A) サンプルを採取する時点からの問題
マウスやラットなどの動物からサンプルを採取する際、「PBSや生理食塩水による灌流で脱血→固定液による灌流で固定」というステップを踏むことがありますが、このステップでの「固定液による灌流」が不十分だと、その後のサンプル処理や保管中に抗原の分解が進み、抗原抗体反応に影響します。こうなってしまうと、サンプルの取り直しが必要になるでしょう。
固定ムラや固定不良といったトラブルを減らせる、とても便利な「灌流固定ツールセット」(Genostaff株式会社)が販売されていますので、そういったツールを利用すると良いでしょう。
(B) そもそも、その固定法が適切なのか?
固定、と一口に言っても、使用する固定液によって原理が異なるいくつかの方法があります。
「凝固固定」という、脱水による固定法(アルコール、アセトン等を使用)・「架橋固定」という、共有結合による固定法(ホルマリン、グルタルアルデヒド等)があり、固定法によっては抗体が反応する抗原部位がマスクされてしまい、反応できなくなるなどの問題があります。
そこで、抗体のデータシートに記載されている推奨固定方法を確認してみましょう。
また、ホルマリン系固定液は廃液処理の問題もあります。施設によっては手続が面倒なことも・・・?
ホルマリン不要のパラフィン包埋切片用組織固定液「HOPE Fixative System」(Polysciences, Inc.)といった便利な製品も販売されていますので、サンプルの種類によっては検討しても良いでしょう。
ホルマリンが不要のパラフィン包埋切片用組織固定液 | HOPE Fixative System | フナコシ (funakoshi.co.jp)
(C) サンプルはどのような包埋方法か?保管方法は?
免疫組織染色(IHC)用のサンプルは、主に
「Optimal Cutting Temperature (OCT)compound で作った凍結ブロックに包埋→凍結切片」
「パラフィンブロックに包埋→パラフィン切片」
で作られます。抗体によっては「パラフィン切片には適用不可」(あるいは確認していない)の物があります。
購入予定あるいは検討中、使用予定の抗体が、パラフィン切片への適用が可能かどうかをメーカーに確認してみるのも一つです。
またサンプルの保管方法についても注意しましょう。凍結ブロックは冷凍(当たり前ですが)、パラフィンブロック、及びパラフィン切片は冷蔵保管することで、サンプルの劣化を防ぐことができます。
(D) 抗原賦活化処理の有無と条件は適切か?
抗原賦活化処理には
- 酵素処理
- 熱処理
- pH変化による処理
- その他、市販品を使用する方法
があります。
酵素処理ではペプシン、トリプシンといった酵素が使用されます。ただし、酵素により抗原が完全に消化され、抗原性を失ってしまう可能性もあるため、十分な条件検討が必要です。
熱処理(HIER;Heat induced epitope retrieval)には
- 電子レンジ(マイクロウェーブ)を用いた処理
- オートクレーブを用いた処理
- 専用機器を用いた処理
があります。
電子レンジを用いた処理では、バッファーを含むビーカー中の染色かごにスライドを入れて処理します。ワット数、時間、バッファーの種類などの条件検討が必要となります。経験上ですが、サンプルが剝がれやすいような気がします。
オートクレーブを用いた処理も同様にバッファー中に浸したスライドを処理します。温度、時間、バッファーの種類の条件検討が必要となります。電子レンジと比較して時間がかかること、サンプル処理中はオートクレーブ滅菌に使用できないことがデメリットと考えられます。
専用機器を用いた処理は、安定した条件での抗原賦活化を可能とします。再現性の安定化に有用です。作動中の内部圧力値や温度、処理時間の実測データを保存する機能があるなど、トラブル時にも原因追及を可能とします。
例えば、「Decloaking Chamber NxGen」(BIOCARE Medical LLC)があります。
免疫染色用の抗原賦活化装置 | Decloaking Chamber NxGen | フナコシ (funakoshi.co.jp)
pH変化による処理には、37度中でクエン酸バッファーにインキュベートするという「マイルド」な方法があります。
その他の市販品を使用する方法では下記のような製品があります。
- Antigen Unmasking Solution(VECTOR LABORATORIES, INC.):ホルマリン固定・パラフィン包埋切片用の抗原賦活化試薬
パラフィン包埋切片の抗原賦活化に | Antigen Unmasking Solution(Vector社) | フナコシ (funakoshi.co.jp)
- L.A.B. Solution(Polysciences, Inc.)
免疫染色の抗原賦活化溶液 L.A.B. Solution | コスモ・バイオ株式会社 (cosmobio.co.jp)
- Trilogy™(Cell Marque Corporation)
Trilogy™ | 免疫染色での脱パラフィン・再水和・賦活化を1液で実施 | コスモ・バイオ株式会社 (cosmobio.co.jp)
抗体の問題
さて次に、抗体の問題について見ていきたいと思います。
(A) 再構成(Reconstitution)方法は?
抗体が凍結乾燥粉末の場合、再構成(Reconstitution)という「液体で溶かしなおす」作業が必要となります。とはいえ、その液体は「何でもよい」というわけではありません。
製品に添付されている(あるいはウェブサイトから取得できる)データシート(取扱説明書)や、試験成績書(Certificate of Analysis. COA)に記載の液体により、再構成をしてください。
なお、再構成方法についてもメーカー側で予告なく変更しているケースがあります。過去のノートや引継ぎ情報などで再構成するのではなく、受け取った製品ロットに沿った再構成法を使用しましょう。
またこれも良く受けたお問い合わせですが、凍結乾燥粉末の場合、製品量がごく微量のために目視では確認できなかったり、バイアルの上部に付着しているケースがあります。ですので、いきなり溶かすのではなく、(通常は室温に戻してから)遠心機でスピンダウン、あるいは軽く叩いて底面に粉末を落とすようにしてください。
(B) 保存方法は問題なかったか?
(A)で再構成したような抗体、あるいは元々液状で届いた抗体は、濃度が濃い状態、及びキャリアタンパク質(例:BSA;ウシ血清アルブミン)と呼ばれる安定化剤が含まれている状態であることが多いです。
これらを再度冷凍保存する際、そのまま冷凍→使用前に再解凍を繰り返す(凍結融解)と、タンパク質の分解につながります。
必ず、小分け(分注)して、必要な分だけを必要な時に解凍できるようにしましょう。
冷凍庫にも注意しましょう。家庭用冷凍庫の場合は霜取り機能(デフロスト)が付いており、霜が付かないように敢えて庫内温度を定期的に上げています。この機能により、知らない間に凍結融解が発生・抗体にダメージが生じてしまいます。研究用冷凍庫の使用、及び霜取り機能の調整をしてから保管しましょう。
なお、冷凍庫内の保管位置にも注意が必要です。ドアポケットに置いてしまうと、冷凍庫開閉のたびに室温にさらされることとなり、ダメージを受けてしまいます。冷凍庫内で庫内温度変化の少ない場所に置くようにしましょう。
また希釈した後の抗体を保存することは避けましょう。抗体活性の低下につながります。抗体の希釈は使用直前に行い、できるだけ使い切りとしましょう。
(C) 希釈率は適切か?
一部の希釈済み抗体(Ready-to-Use)を除き、通常は抗体を適切な緩衝液(バッファー)で希釈してからサンプルへ使用します。抗体濃度は高すぎるとバックグラウンドの増加、低すぎても染色できないという結果になります。メーカーのデータシートに記載されている希釈率を参考にして、最適な濃度検討を行いましょう。
なお、希釈率だけを参考にして使用し続けていると、ロットが変わりタンパク質量が変わった場合に、気づかず薄い濃度のまま(あるいは濃い濃度)で使用してしまい、うまく染色できないといったトラブルが起こりえます。ですので、同じ製品でも新しく届いたものを使用する際は、「希釈率よりもタンパク質量」を意識して、適切な(抗体の)タンパク質量となるように調整しましょう。
(D) 余計なものを加えていませんよね?
酵素標識抗体のうち、HRP(Horseradish Peroxidase)という酵素は、保存剤であるアジ化ナトリウム(NaN3)を使用してしまうと活性が阻害されてしまいます。HRPにアジ化ナトリウムは絶対にダメ!違う保存剤を使用しましょう。
また蛍光標識抗体の場合は、その蛍光標識が冷凍保存に適していない場合もあります。メーカー指定の方法にそって保存しましょう。
(E) モノクローナル・ポリクローナルの特性
モノクローナル抗体は単一エピトープ(抗原部位)を結合対象としているため、固定等によりエピトープがマスクされたり失われたりすると反応しなくなってしまうというデメリットがあります。(このようなデメリットを少しでも解消するため、複数のクローンがカクテルされたモノクローナル抗体が市販されていたりもします。)
一方、ポリクローナル抗体は複数のエピトープに対する抗体が混ざった抗体であるため、反応性は高いと言えます。
モノクローナル・ポリクローナル抗体どちらの場合にも当てはまりますが、免疫に使用した抗原(Full lengthのタンパク質なのか、抗原の一部を使用したものなのか)を確認し、それが組織切片上でエピトープとして反応できる状態にあるのか、よく検討する必要があります。抗体自体の特性を理解する必要があります。
(F) その適用(アプリケーション)に適切な抗体か?
各メーカーのデータシートには、そのアプリケーションへの使用可否や使用結果についての記載があります。抗体によっては免疫組織染色には適していなかったり、反応性が低いために保証外としている製品もあります。また「凍結切片」には使用できても、「パラフィン切片」には使用できない製品もあります。購入前に製品のデータシートを入手し、確認した上で最終検討しましょう。
少しでも疑問があれば、メーカーや代理店に確認するとベストです。
(G) 「交差性」に注意!
動物種間で相同性が高いタンパク質については、データシートに記載のない場合でも反応する可能性はあります。ただ反応しなかった場合でも、残念ながらメーカーの保証はありません。
上記の「適用」と同様に、交差性についても疑問があれば、メーカーや代理店に確認するとベストです。
(H) 使用している2次抗体は適切ですよね・・・?
2次抗体を使用して免疫組織染色を行う場合、1次抗体のスペックに適した2次抗体を選択する必要があります。
(例1)1次抗体の免疫動物がウサギ(Rabbit)の場合
→ 2次抗体は「抗ウサギIg●抗体」を使用する必要があります。
(例2)1次抗体の免疫動物がマウス(Mouse)モノクローナル抗体で、サブクラスがIgG1の場合
→ 2次抗体は「抗マウスIgG1抗体(あるいは抗マウスIgG抗体)」を使用する必要があります。
特に1次抗体がモノクローナル抗体の場合は、そのサブクラスにも注意を払いましょう。
(I)反応時間を長くしてみる!
抗体によってはアフィニティが低いものもあります。1次抗体,2次抗体の反応時間(インキュベーション時間)を長くしてみると,染まることがあるかもしれません。たとえば数時間のインキュベーション時間だったものを,一晩(オーバーナイト)にしてみる,などです。
関連試薬の問題
免疫組織染色を行う際には、抗体以外にも多くの関連試薬を使用します。それぞれの注意点について見ていきましょう。
(A) ブロッキング法の確認
免疫組織染色を行う際には、適切なブロッキング剤を使用して、非特異的な反応を抑えた染色を行う必要があります。
(A-1) タンパク質によるブロッキング
免疫組織染色におけるタンパク質性のブロッキング剤としては、「血清」「BSA」「スキムミルク」を使用します。
大量のタンパク質で組織サンプルをコーティングし、染色対象である抗原以外への反応(非特異的反応)を防ぎ、特異的な反応性を上げる効果があります。
ここで適切なブロッキングを行わないと、「バックグラウンドが高い染色像」「染まらない」といったトラブルが生じます。
たとえば「血清」を用いる場合は、通常は「使用する2次抗体の免疫動物と同じ動物の血清」を使用します。
(例:2次抗体が「ヤギ由来抗マウスIgG抗体」であれば、「正常ヤギ血清(Normal Goat Serum)」を使用します。)
様々なメーカーで正常血清を販売していますので,市販のものを利用するのがもっとも手軽でしょう。
- ブロッキング試薬(VECTOR LABORATORIES, INC.)
免疫組織染色用 | ブロッキング試薬・ネガティブコントロール | フナコシ (funakoshi.co.jp)
- ブロッキング試薬各社
特集:組織染色 – ブロッキング試薬 | コスモ・バイオ株式会社 (cosmobio.co.jp)
- 正常血清(Jackson Immuno Research Laboratories, Inc.)
Jackson社 正常血清(Normal Serums)|【ライフサイエンス】製品情報|試薬-富士フイルム和光純薬 (fujifilm.com)
(A-2) 組織中内在性酵素(内在性ペルオキシダーゼ)のブロッキング
HRP標識された抗体で免疫組織染色を行う場合、HRPの基質となるDAB(3, 3’ diaminobenzidine tetrahydrochloride)で色付けをします。このDABは組織サンプル中にも残存するペルオキシダーゼとも反応し、バックグラウンドが高くなる原因となるため、あらかじめ内在性のペルオキシダーゼをブロッキングする必要があります。
良く使用される方法には,「3%過酸化水素溶液」あるいは「0.3%過酸化水素/メタノール溶液」を利用したものがあります。サンプルによってはこれらの方法が適さない場合もあるため、文献などからサンプルに適した内在性ペルオキシダーゼのブロッキング方法を採用しましょう。
また過酸化水素水は危険性(腐食性)が高いため、取り扱いには十分に注意しましょう。(過酸化水素水が指について、白くなってしまうことをよく経験したものです・・・しかも痛い。)
市販の製品を利用するのももちろん有効な方法です。
- 各社
特集:組織染色 – クエンチング | コスモ・バイオ株式会社 (cosmobio.co.jp)
- 各種ブロッキング試薬(BIOCARE Medical LLC)
免疫染色用各種ブロッキング試薬 | ブロッキング試薬 | フナコシ (funakoshi.co.jp)
- Hydrogen Peroxide Blocking Reagent(Abcam plc)
Hydrogen Peroxide Blocking Reagent (ab64218) | アブカム (abcam.co.jp)
(A-3) 組織中内在性ビオチンのブロッキング
ABC法などのアビジン(ストレプトアビジン)ービオチンを介した免疫組織染色法では、組織によっては内在性のビオチンがアビジンービオチン標識酵素複合体と結合して染色されてしまい、バックグラウンドの原因となることがあります。特に、腎臓・肝臓・脳といった組織で起こります。
これを防ぐために、未標識のアビジンをあらかじめ組織に反応させてブロッキングするなどといった処理をする必要があります。
こちらも市販のものを利用してしまうのが、もっとも手軽で確実でしょう。
- 各社
組織染色 – クエンチング | コスモ・バイオ株式会社 (cosmobio.co.jp)
- 各種ブロッキング試薬(BIOCARE Medical LLC)
免疫染色用各種ブロッキング試薬 | ブロッキング試薬 | フナコシ (funakoshi.co.jp)
(A-4) 組織サンプルの動物種と1次抗体の免疫動物が同じ場合のブロッキング
抗体のホスト(宿主)動物種とサンプルの動物種が同じ動物種の場合、たとえば「マウスの組織をマウス由来モノクローナル抗体(1次抗体)で染色」「ラットの組織をラット由来モノクローナル抗体(1次抗体)で染色」するといった場合、使用する2次抗体は抗マウス(前者)、抗ラット(後者)抗体となります。こうなりますと、使用する2次抗体は組織中に存在する(内在性の)抗体にも反応してしまい、バックグラウンドの原因となります。
できるだけ組織サンプルの動物種と1次抗体の動物種が同じになることは避けた方が望ましくはありますが、二重染色や入手可能な抗体の事情等でやむを得ない場合は、専用試薬を使用することでバックグラウンドの低減・軽減を図ることができます。
たとえば下記のような製品が市販されています。
- VECTOR M.O.M. Immunodetection Kit(VECTOR LABORATORIES, INC.)
マウス組織切片をマウス抗体で免疫染色できます! | VECTOR M.O.M. Immunodetection Kit | フナコシ (funakoshi.co.jp)
- Klear マウス-オン-マウス組織検出システム(Golden Bridge International, Inc)
Klear マウス-オン-マウス組織検出システム | 独自のポリマー技術で高感度な染色が可能 | コスモ・バイオ株式会社 (cosmobio.co.jp)
(B) 使用している基質と標識酵素の確認
どんな免疫組織染色にもDABを基質として使用していませんか?
DABはHRP(Horseradish Peroxidase, 西洋ワサビペルオキシダーゼ)用の基質です。アルカリホスファターゼ(ALP、AP、Alkaline Phosphatase)標識抗体の抗体では、DABは基質とはならずに反応しません。
使用している抗体に標識された酵素と、基質の組み合わせを再確認しましょう。
- 免疫染色用アルカリホスファターゼ(AP)基質キット(VECTOR LABORATORIES, INC.)
形態的観察に有用な高感度の染色基質 | 免疫染色用アルカリホスファターゼ(AP)基質キット | フナコシ (funakoshi.co.jp)
- Permanent Red キット(ScyTek Laboratories, Inc.)
Permanent Red キット | 免疫染色でのアルカリホスファターゼ検出に最適な基質 | コスモ・バイオ株式会社 (cosmobio.co.jp)
- BCIP-NBT 溶液(Ready To Use)(ナカライテスク株式会社)
BCIP-NBT 溶液(Ready To Use)|製品情報|ナカライテスク (nacalai.co.jp)
また基質と酵素の組み合わせが合っていても染色がうまく行かない場合、基質を新しいものに変えて染めてみるとうまく行くことがあります。基質は基本的には安定であることが多いですが、保存中の劣化も考慮する必要があります。
(C) 使用している封入剤の確認
染色直後はキレイに見えていたのに,保管している間に徐々に色落ちが・・・といったトラブルの場合は,使用した封入剤が基質に適したものかどうかを確認しましょう。
例えばHRP基質のDABは「水溶性」の基質です。ですから,「非水溶性=疎水性」の封入剤を使って封入する必要があります。水溶性封入剤を使うと色が抜けてしまいます。
同じくHRP基質のAECは,「非水溶性(有機溶媒に溶ける」です。ですので,「水溶性」の封入剤を使って 封入する必要があります。非水溶性封入剤を使うと色が抜けてしまいます。
蛍光免疫組織染色(IF)の場合はどうでしょうか?蛍光は「退色」するため,「退色防止剤」入りあるいは退色防止機能を謳っている封入剤を使用することをおススメします。
「VECTASHIELD Vibrance Antifade Mounting Medium(Vector Laboratoris社)」は,低バックグラウンドで,多くの蛍光色素に対応している製品として有名です。
気泡が入りにくく固化するタイプの蛍光染色用封入剤 | VECTASHIELD Vibrance Antifade Mounting Medium | フナコシ (funakoshi.co.jp)
その他解決手段
免疫組織染色自体は長い歴史があり、すこしでも染色性を上げられるよう、多くのメーカーが製品を出してきました。
ここでは「染色はできるようだけど、発色が弱い」といった場合の解決方法や、その製品の一例をあげてみたいと思います。
(基質側) 染色(シグナル)が弱い場合に増強する方法
DABの場合、古くから使われているのはDAB発色液に塩化コバルトや塩化ニッケルを入れる方法です。ただしこの場合、DABの本来の呈色(茶色)ではなく,黒紫~紫青といった別の色になるため、多重染色する場合に色が重複するようなら、この方法の採用は難しくなります。
市販品であれば、この問題を解決可能です。
たとえば、従来の色、あるいはその他の色で呈色させたい場合は,VECTOR LABORATORIES社の「ImmPACT」シリーズが有用です。
- ImmPACTシリーズ(VECTOR LABORATORIES, INC.)
免疫組織染色用HRP/AP酵素基質(Vector社) | Enzyme Substrates for Immunohistochemistry | フナコシ (funakoshi.co.jp)
ImmPACTシリーズはDAB以外のHRP用基質のみならず、ALP用基質でも増感基質が販売されています。
- Intensi/Fire(Diagnostic BioSystems)
染色増感剤 Intensi/Fire | 組織染色シグナル増強用試薬 | コスモ・バイオ株式会社 (cosmobio.co.jp)
こちらはDAB染色後にインキュベーションする製品です。
(抗体側) 染色(シグナル)が弱い場合に増強する方法
抗原抗体反応を高めることで,染色性を上げる製品が市販されています。どちらも抗体の希釈液として使用するだけの簡単な方法です。
- Signal Booster Immunostain(株式会社ビークル)
Signal Booster Immunostain | (beacle.com)
本シグナルブースターイムノステインの主成分はポリマーとタンパク質です。ポリマーやタンパク質は抗原や抗体の物理化学的特性を変えることにより、両者の接触頻度を上げ、特異的抗原抗体反応を高めたり、また、非特異的な結合を低下させます。この結果、バックグラウンドを下げながら特異的な抗原抗体反応を高めます。
引用: Signal Booster Immunostain | (beacle.com)
- Can Get Signal® immunostain(東洋紡株式会社)
抗原抗体反応を、高い特異性を保ちつつ促進する効果があり、従来法に比べS/N比の高い良好なシグナルを得ることができます。また、2次抗体の使用量を減らして、バックグラウンドを抑えた明瞭な像を得るような使用法も可能です。
引用: Can Get Signal® immunostain Immunoreaction Enhancer Solution – 製品情報 | バイオ事業総括部/バイオプロダクト営業部 (toyobo.co.jp)
それでも問題解決しないようなら・・・
何をしても解決できない・・・そういった事も十分にありえます。なぜなら抗体もタンパク質(生もの)だからです。
同じメーカーの同じ商品コードの抗体でも、ロットや採取個体の違いでも反応性の変化は発生します。(もちろんメーカーも、ロット間差が無いようにQC;品質管理テストを通してはいます。)
このような場合は、購入した販売店や輸入元の代理店にトラブルシューティングを依頼しましょう。
各メーカー、トラブルシューティング用の記入用紙を用意していることがあったり、無い場合でも代理店から確認項目の連絡が届きますので、その内容に沿って情報記入をして提出しましょう。
最後に
いかがでしたでしょうか。抗原抗体反応は目に見えにくい分、トラブルシューティングが難しいものです。1次抗体に問題が無くとも、2次抗体や酵素、基質に問題があれば発色(呈色)しないなど、複合的な要素を考え、一つ一つ原因をつぶしていく必要があります。
こちらをご参考頂き、お気づきの点がありましたらお問い合わせフォームよりご連絡ください。