Organoid-vs-Spheroid

再生医療分野において,iPS細胞(induced pluripotent stem cells:人工多能性幹細胞) やES細胞(embryonic stem cells : 胚性幹細胞)研究の発展に伴い,培養容器内(in vitro)で様々な条件での培養が可能となっています。

それは従来からの平面(2次元)での培養はもちろん,立体(3次元)での培養も可能で,特に3次元での培養は,ある程度の機能を持たせた「集まり」にすることも可能となっています。そしてその「ある程度の機能を持った集まり」を使って,薬理効果・薬物動態の研究も盛んになっています。これは現在世界的な流れになっている「動物実験代替」に大きく貢献しており,実験に使用される動物の減少にもつながります。

さて,そのような 「ある程度の機能を持った集まり」 には,2つの種類があります。一つは「オルガノイド」。もう一つは「スフェロイド」。どちらも3次元構造を持った「集まり」でありながら,その機能や使い方には違いがあります。どちらが適しているかは実験系にもよるため,両者の性質をしっかりと知っておく必要があります。

オルガノイドとは?スフェロイドとは?どのように違うか,順に見ていきましょう。

そして,培養に必須の製品,最新技術を持った製品もご紹介します!

名前の違い?「オルガノイド」vs.「スフェロイド」

スフェロイドとは?

「スフェロイド」という言葉は最近出来たようにも思えますが,実は今から40年も前の1970年代の論文からその名前は出ています。
このことから,「歴史のある」3次元構造の細胞モデル,ということが伺えます。

細胞同士が自発的に凝集したものが「スフェロイド(Spheroid)」です。

ロングマン現代英英辞典によると,Spheroidとは「球体に近いが,完全に丸いものではない」という記載になっており,立体を伴いながらも球体では無いという定義になっています。

sphe‧roid
a shape that is similar to a ball, but not perfectly round

spheroid | ロングマン現代英英辞典でのspheroidの意味 | LDOCE (ldoceonline.com)

オルガノイドとは?

一方,「オルガノイド」は,「幹細胞」をベースにしています。幹細胞が基底膜となるECMをベースに3次元構造を取って集まったものが「オルガノイド(Organoid)」です。※癌細胞でも形成します。

まとめ

「オルガノイド」と「スフェロイド」は,単なる名前の違いではない!
ベースとなっている細胞,形成の仕方も異なる。

構造や機能の違い? 「オルガノイド」vs.「スフェロイド」

「スフェロイド」は,単純な構造を以って凝集した細胞塊です。またその由来は一つの細胞種,もしくは細胞塊から形成されます。※複数の細胞種から出来ているものもあります。

スフェロイドの種類もいくつかありますが,基本的には「層構造」となっており,内部に行くほど低酸素状態になったり,休眠状態の部位があったりと,2次元培養とは異なった環境下の細胞が見られます。
ただし,癌細胞からスフェロイドを作った場合には,生体内での癌が持つような複雑な構造を取ってはいません。固形がんの特長を模倣しています。

「オルガノイド」は複数の(幹)細胞種から「器官様」の立体組織を形成します。いわゆる「ミニチュア臓器」とも言えるもので,腸や肺などのオルガノイドが有名です。

オルガノイドのほうがスフェロイドよりも,より複雑な構造をとっており,元となった細胞や組織の環境を色濃く表現します。

まとめ

「オルガノイド」と「スフェロイド」は,構造も違う!

培養方法の違い? 「オルガノイド」vs.「スフェロイド」

「スフェロイド」は,(使用する細胞や培養条件,使用目的によっても異なりますが)成長因子を使用しながら,細胞外マトリックス(ECM)がある環境,ない環境のどちらでも培養が可能です。ハンギングドロップ法やリキッドオーバーレイ法,スピナーフラスコを利用した方法などがあります。

「オルガノイド」は細胞外マトリックスやスキャフォールドを使用して,成長因子と共に培養します。オルガノイドの形成には数か月かかることもあり,その長さは培養する細胞によって異なります。

そのため,コスト面ではスフェロイドの方が安価に済むことが多いです。

まとめ

ECMが「オルガノイド」には必要。「スフェロイド」には必ずしも必要ではない。コスト面では「スフェロイド」の方が安価。

培養可能期間の違い? 「オルガノイド」vs.「スフェロイド」

「スフェロイド」は元々の性質から,長期間の培養が難しいとされています。

「オルガノイド」は幹細胞由来であることから,長期間の培養が可能となっています。また,凍結保存も可能です。

まとめ

培養可能期間は,「オルガノイド」>「スフェロイド」。

使用目的の違い? 「オルガノイド」vs.「スフェロイド」

どちらも3次元構造を取っているため,2次元培養よりも生体(in vivo)環境に近い状態を作り出せ,創薬スクリーニングに適していることは共通です。

先にあげたコスト面やハンドリングのしやすさの面から見ますと,

「スフェロイド」は低コストで生体に近い環境を模倣できるため,特に創薬スクリーニングに求められる,ハイスループットな解析に向いています。

「オルガノイド」は,スフェロイドよりも高コストとなる分,生体(in vivo)中の構造や環境の再現性が高く,より優れたスクリーニングを実行できます。また「オルガノイド」は由来となった細胞・組織をより近い環境で再現するため,これを疾患モデルとすることで,より特定の疾患研究・免疫療法などの治療方法検討・毒性検討・個別化医療の検討に適しています。また幹細胞から作成する場合は,臓器形成・臓器モデルとすることができます。

まとめ

「スフェロイド」は低コストでハイスループットに創薬スクリーニングを行うのに適している。
「オルガノイド」は高コストだが,疾患モデルや臓器モデルを高く再現でき,より深く創薬スクリーニングや毒性試験の検討ができる。

総まとめ!「オルガノイド」とは?「スフェロイド」とは?

ここまで文章で,「オルガノイド」と「スフェロイド」の違いについて述べてきました。

もう少しスッキリさせるために,表でまとめてみましたのでご参照ください。

スフェロイドオルガノイド
総論単純な3次元構造を持った細胞塊。層構造を持っており,ハイスループットな創薬スクリーニングに適している。簡単に作成でき,低コスト。
長期間の培養は困難。
臓器・器官様の構造を取り,細胞の由来となった組織の環境を表現する。生体(in vivo)環境に近い構造を取り,スフェロイドよりも細かいスクリーニングが可能。
長期間の培養にも対応する。
由来細胞通常の細胞,癌細胞など,幅広い細胞種から
作ることができる。
ES細胞,iPS細胞といった多能性幹細胞や癌幹細胞。
作成方法 ハンギングドロップ法やリキッドオーバーレイ法,スピナーフラスコを利用した方法など 。
足場(細胞外マトリクス:ECM)が無くても作成できる。
作成には細胞外マトリクス(ECM)やスキャフォールド
などの足場が必要。
長期間培養 困難 可能
コスト低コスト高コスト
使用目的創薬スクリーニングにおける
ハイスループット解析
創薬スクリーニングにおける解析 , 特定の疾患研究・免疫療法などの治療方法検討・毒性試験・
個別化医療の検討 ,
臓器・器官モデルの作製

スフェロイド・オルガノイド培養に便利な製品

さて,ここからはスフェロイドやオルガノイドの培養に役立つ製品を紹介していきたいと思います。

Corning® スフェロイドマイクロプレート(コーニング社)

超低接着表面を持つことにより,均一で再現性のあるスフェロイドを作ることができる専用マイクロプレート。3D スフェロイドの作製と分析が一枚のプレートでできる優れモノ。

3D スフェロイドマイクロプレート | マイクロプレート | Corning

3D CoSeedis(abc biopply社)

スイスにある「abc biopply ag」社が最近リリースした,三次元培養,オルガノイド・スフェロイド作製用チップ。このチップを6ウェルプレートあるいは24ウェルプレートに入れて培養することで,大量に均一のスフェロイド・オルガノイドを作製できるユニークな製品。高コストとなりがちなオルガノイド作製のコスト削減に一石を投じる製品と感じます。

三次元培養,オルガノイド・スフェロイド作製用チップ 3D CoSeedis

ibidi µ-Slide Spheroid Perfusion(ibidi社)

長期培養が難しいスフェロイドを,灌流培養により長期の生存を可能にするドイツ・ibidi社のユニークな培養器材。

マイクロスライド スフェロイド パフュージョン| 日本ジェネティクス株式会社 製品検索 (n-genetics.com)

PrimeSurface®(住友ベークライト社)

各種培養器材の国内メーカーとして著名な住友ベークライト株式会社が販売する,3次元培養用培養器材のPrimeSurface®。スフェロイド・オルガノイドの作製が可能で,各種企業での使用実績もある点が心強い。さらに国内生産で安定供給・高品質と言う点もポイントが高い。

3次元培養用プレート「PrimeSurface ®」 | 住友ベークライト株式会社 (sumibe.co.jp)

参考文献

[1] Growth of Multicell Spheroids in Tissue Culture as a Model of Nodular Carcinomas
Robert M. Sutherland, John A. McCredie, W. Rodger Inch
JNCI: Journal of the National Cancer Institute, Volume 46, Issue 1, January 1971, Pages 113–120,
https://doi.org/10.1093/jnci/46.1.113

[2] Three-Dimensional Cell Culture Systems and Their Applications in Drug Discovery and Cell-Based Biosensors
Rasheena Edmondson, Jessica Jenkins Broglie, Audrey F. Adcock, and Liju Yang
Assay Drug Dev Technol. 2014 May 1; 12(4): 207–218.
doi: 10.1089/adt.2014.573

[3] Three-Dimensional Cell Cultures in Drug Discovery and Development
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