Import and Export

国内だけでなく、海外の研究者とも共同研究を行う機会が増えています。共同研究だけでなく、持っている研究試料(抗体、化合物など)や生体(細胞や胚など)を送ったり、送ってもらったりすることもありますが、きちんとした手続きで対応できているでしょうか?

今回はそのような「輸入・輸出」に関わる、「これだけは知っておきたい」情報をまとめてお送りします。

※こちらの記載内容は法令改正等、及び担当所管により見解が異なる可能性があります。また一般的な内容を掲載しており、個別案件によって例外もございます。各関連省庁のウェブサイトのご確認及び省庁・所属機関内担当者にお問い合わせの上、最新情報の入手をお願いいたします。本記載内容に起因して生じた損害については一切の責任を負いません。

ワシントン条約(CITES)

担当省庁・部門:経済産業省

まずは国際条約である「ワシントン条約(Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora ; CITES(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約))」からです。

これは有名ですね、空港に行くと象牙やワニ革などの没収物が展示されていますが、「希少な動植物種」の取引を規制するための条約です。

輸入時には、輸出国が発行する「CITES輸出許可書」が必要です。

また経済産業省からも書類の入手が必要です。こちらは附属書Ⅰ該当種、附属書Ⅱ及び附属書Ⅲ該当種によって必要な書類は異なりますが、

「輸入承認証」:附属書Ⅰ該当種
「事前確認書」:附属書Ⅱ、Ⅲ該当種

が必要となっています。

輸出時も同様で、原則として経済産業省からの輸出承認を受ける必要があります(例外もあり。)。また輸出先各国が求める書類の作成も必要ですので、これは受け取り側の先方にも確認するようにしましょう。

バイオやライフサイエンス研究で比較的よく該当するのは「サル」由来の試料(生体、細胞、DNA、RNA等)です。

また化粧品研究など有名なワシントン条約該当植物は、「キダチアロエ」及びその由来物質です。実はアロエ属全種がワシントン条約に該当しています。ただし、「アロエベラ」及び「アロエベラ」由来の物質は、ワシントン条約非該当です。

ワシントン条約の該当・非該当は一般名だけでなく「学名」でも調査する必要があります。少しでも不明な点があれば、経済産業省に問い合わせるようにしましょう。

ちなみに「ワシントン条約(Washington Convention)」と海外の人に言っても、通じない可能性が高いです。

「CITES(サイテス、サイティース)」の方が通じます。

関連リンク

輸入:ワシントン条約規制対象貨物の輸入承認手続き

ワシントン条約規制対象貨物の輸入承認手続き (METI/経済産業省)

輸出:ワシントン条約規制対象貨物の輸出承認手続き

ワシントン条約規制対象貨物の輸出承認手続き (METI/経済産業省)

CITESウェブサイト

CITES

検疫(動物・植物)

担当省庁・部門:動物検疫所・植物防疫所(農林水産省)

こちらも有名ですね。海外旅行先から「ビーフジャーキー」や「果物・野菜」をお土産として持って帰ってきた時に受ける必要がある手続きです。

動物検疫は、外国から輸入される動物、畜産物を介して家畜の伝染生疾病が侵入するのを防止することを目的としている他、輸入される犬、猫等を介しての狂犬病の侵入及びサルを介してのエボラ出血熱及びマールブルグ病の侵入を防止することを目的として検疫業務を行っています。

動物検疫所一覧:農林水産省 (maff.go.jp)

植物検疫は、植物に有害な病害虫の国内への侵入・まん延を防止し、もって国内農業生産の安全及び助長を図ることを目的としています。植物防疫所は、この目的を達成するため「植物防疫法」に基づき輸出入植物に対する検疫の実施及び国内の一部に発生している病害虫のまん延防止のための植物類の移動制限等の業務を行っています。

植物防疫所一覧:農林水産省 (maff.go.jp)

ということで、輸入したものから国内に感染症や病害虫が蔓延するのを防ぐ目的で行われています。

バイオ・ライフサイエンス研究において、動物検疫に該当する物質は「抗体・抗血清」が挙げられます。

ただし、動物によっても異なります。「マウス、ラット、モルモット」由来の抗体は原則として動物検疫「非該当」となります。それ以外の動物由来の抗体(抗血清)は動物検疫「該当」となり、健康証明書(Animal Health Certificate)が必要となることがあります。動物検疫の方針と必要書類、手続きは多々変わることがありますので、最新情報は動物検疫所の見解をご確認ください。

輸出においては受け取り先各国の見解によるため、事前に必要書類を先方各国の動物検疫担当省庁に確認頂くことをお勧めします。

また抗体においては、動物検疫だけではなく「輸出貿易管理令」における「リスト規制」該当品(輸出令 第1項 (14)の”生体高分子”に記載)となりますので、輸出時には特に注意が必要です。各所属機関における輸出該非判定の基準に沿って対応頂く必要があります。

関連リンク

動物検疫所「動物の輸出入」

動物の輸出入:動物検疫所 (maff.go.jp)

植物防疫所「輸出入条件詳細情報」

輸出入条件詳細情報:植物防疫所 (maff.go.jp)

経済産業省「安全保障貿易管理」「リスト規制」について

安全保障貿易管理**Export Control*リスト規制 (meti.go.jp)

カルタヘナ法

担当省庁・部門:経済産業省、文部科学省他

正式名称は「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」で、2003年9月に発効となった「生物の多様性に関する条約のバイオセーフティに関するカルタヘナ議定書」に基づく国内法です。

こちらは既に各研究機関でも細かく規定が定められていると思いますので、国内においてはその規定に沿う必要があります。

特に注意しなければならないのは、この「カルタヘナ議定書」は締約していない国もあるということです。例えばアメリカ合衆国はカルタヘナ議定書に批准していません。

つまり、海外の提供者側が「カルタヘナ法」の重要性・重大性を理解していない(理解しきれない)場合があるということです。

共同研究などでカルタヘナ法該当となる遺伝子組換え生物(例:ウイルス、細菌、種子、胚等)および遺伝子組換えウイルスを用いて製造された研究用試料、物質(=ウイルスが含まれないことを確認できていない物)を輸入する場合には、

  • 提供者側へ丁寧に説明し、情報開示を得ること
  • 輸入する前に所属機関に確認・相談し、必要な処置を取ること

が大切となります。

また輸出の際にも同様の注意があり、「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」の第27条、第28条に記載があります。除外規定もあるため、輸出する当該品がどのように当てはまるか、よくご確認下さい。

関連リンク

遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律

遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律 | e-Gov法令検索

遺伝子組換えに関するQ&A(第二種使用等)

ライフサイエンスの広場|生命倫理・安全に対する取組 (mext.go.jp)

輸出貿易管理令(リスト規制・キャッチオール規制)

担当省庁・部門:経済産業省

日本及び国際的な平和と安全を維持する観点から、大量破壊兵器や通常兵器、生物兵器の製造、研究開発につながる物資・技術の輸出や提供を防ぐための法律です。外国為替及び外国貿易法(外為法)に基づき管理されています。

外為法で規制されている物資・技術を輸出・提供する場合には、原則経済産業大臣の許可を受ける必要があります。

ここでは主に「リスト規制」と「キャッチオール規制」を覚えておきましょう。

まず「リスト規制」は、上記の「大量破壊兵器や通常兵器、生物兵器の製造、研究開発につながる可能性の高い物資や技術」を対象とした規制で、仕向国(送付先の国)に関係なく、チェックが必要です。

「キャッチオール規制」は、「リスト規制品」に該当しないほぼ全ての物資や技術を規制対象としています。この規制には「大量破壊兵器キャッチオール規制」と「通常兵器キャッチオール規制」があります。「客観要件」と「インフォーム要件 」により判断、どちらか該当する場合は、経済産業大臣の輸出許可が必要です。ただし、いわゆる「ホワイト国」と言われる国向けには、キャッチオール規制はかかりません。

先ほど、「抗体の輸出」の部分で少し触れた通り、抗体は「リスト規制品」に該当します。ただ、「貿易関係貿易外取引等に関する省令第9条第2項第十号」の規定により「基礎科学分野の研究活動において技術を提供する取引()」は経済産業大臣の許可が不要、とされています。この場合、税関に非該当証明書等を提出することで輸出は可能となっていますが、「産学連携」で研究活動が製造や設計に繋がるといったケースもありますので、確認が必要です。また今後の法改正や国際状況の変化により、規制対象や制度が変わる可能性があります。

ですので、リスト規制・キャッチオール規制どちらの場合においても、それぞれの個別の案件について一人で判断せず、必ず所属機関の該非判定及び確認を受けて、正規の手続きを取るようにしてください。

)「自然科学の分野における現象に関する原理の究明を主目的とした研究活動であって、理論的又は実験的方法により行うものであり、特定の製品の設計又は製造を目的としないもの」(役務通達)

関連リンク

経済産業省「安全保障貿易管理」「リスト規制」について

安全保障貿易管理**Export Control*リスト規制 (meti.go.jp)

我が国の安全保障輸出管理制度

輸出管理の基礎 | 安全保障貿易情報センター (CISTEC)

輸出貿易管理令

輸出貿易管理令 | e-Gov法令検索

貿易関係貿易外取引等に関する省令

貿易関係貿易外取引等に関する省令 | e-Gov法令検索

まとめ

いかがでしたでしょうか。

輸出入で関わることが多い4つの法律・規制を主に挙げてみましたが、実際にはさらに多くの法規制が存在しています(国民保護法、覚せい剤取締法、麻薬及び向精神薬取締法、EARなど・・・)。

ここですべての法規制を挙げることは難しく、また個別に考慮する案件もあります。輸入においても輸出においても当事者が責任を負うことになっていますので、所属機関担当者、各省庁への確認も含めて、正規の手続きを取るようにしてくださいね。

それでは。