western-blot-trouble-shooting-guide

サンプル中のタンパク質を膜(メンブレン)に転写して,抗体で検出するウェスタンブロッティング(ウェスタンブロット)。
手軽さも手伝い,大学での実験実習でも行われている基本的な実験手法のひとつです。

ウェスタンブロッティングは,SDS-PAGE(SDS Polyacrylamide gel electrophoresis)などで電気泳動した後のゲルからタンパク質を膜(ニトロセルロースメンブレン,あるいはPVDFメンブレン)に転写して,そのタンパク質を抗体で染色し可視化する方法です。結果はイメージング装置でデジタル画像化したり,X線フィルムに感光させて,バンドとして確認します。画像解析により,シグナル強度から定量もできます。結果の見方は,電気泳動時にサンプルと同時に流した分子量マーカーからサンプル中に含まれる目的タンパク質のバンドの分子量を求めます。他のタンパク質解析法であるELISAとは違い,検量線を作成することは通常ありません。
原理を言うのは簡単ですが,いざやってみると・・・うまく行かないことがあります。

研究用試薬機器輸入商社の試薬技術サポートとして,数多くのウェスタンブロッティング時のトラブルに関する相談を受け,解決してきた経験から,ここでは ウェスタンブロッティング における問題発生時のトラブルシューティングについて取り上げたいと思います。あらかじめこのような「失敗例」「コツ」を知っておくことで, ウェスタンブロッティング 初心者の方はトラブル回避の役に立つかと思います。

完全ではありませんが,これらのポイントさえ押さえておけば, ウェスタンブロッティング での失敗は減るでしょう。

長文となりますので、「必要だ」と思われる部分について特にご注目下さい。(トップに戻る場合は、画面右下の「^」マークを押してください。また定期的に情報追加していきます!

トラブルの種類

ウェスタンブロッティングの問題は,大きく下記の3つがあります。

  1. バンドが出ない・シグナルが弱い
  2. バックグラウンドが高い
  3. バンドがたくさん出る,想定よりもバンドの位置がずれる

それでは、ここから一つずつ確認していきましょう。

バンドがでない・シグナルが弱い

よくあるトラブルの一つで,(肌感覚では)いちばん問い合わせが多かったように思います。バンドが出ないと・・・悔しいですよね。では見ていきましょう。

抗体は適切?

まず疑うべきなのは,やはり抗体です。抗体の濃度,力価をポジティブコントロールを用いて最適条件を検討する必要があります。毎回毎回電気泳動からウェスタンブロッティングをするのも非常に面倒ですので,ウェスタンブロッティングを簡易化した「ドットブロット」で条件検討することもできます。

また,抗体自身の特性についても確認してみましょう。免疫組織染色(IHC)トラブルシューティングガイドの時も書いていますが,抗体製造時の免疫に使用した抗原(Full lengthのタンパク質なのか、抗原の一部を使用したものなのか)を確認しましょう。対象となるエピトープ部分がサンプルに含まれないのであれば,いくら頑張ってもバンドは出ません。

この「バンドが出ない」ケースで,過去に経験したお問い合わせの一つに「抗Hisタグ抗体で検出できない!」という物がありました。色々と話を伺った中でわかったのは,
「N末にHisが付いたタンパクを,N末には反応しない抗C末Hisタグ抗体で検出しようとしていた」
ことが原因でした。
タグをN末,C末,あるいはInternalのどこに入れるのかによって,抗タグ抗体が反応しないケースもあるため,注意しましょう。

その他,抗体の問題で関わる部分は,免疫組織染色(IHC)の際と同様です。抗体における注意点は,こちらの記事も合わせて確認してみてください。

チェックポイント❣

✓ 1次抗体,2次抗体の濃度と希釈率の確認
✓ 1次抗体,2次抗体の反応時間の確認
✓ 1次抗体と2次抗体の組み合わせの確認
✓ 1次抗体の抗原認識部位(エピトープ)の確認
✓ 抗タグ抗体の場合,認識部位(N末,C末,Internal等)の確認

ブロッキングは適切?

抗体を用いたアッセイでは大体どの方法でも必須となる「ブロッキング」作業。抗体で検出したい目的タンパク質以外への非特異的吸着を抑えるためのステップです。

ウェスタンブロッティングでも当然このステップがあり,スキムミルクやBSAなどがよく使用されます。
しかし,どんなタンパク質を見るときでも同じブロッキング剤を使用すればよいわけではありません。
タンパク質の種類によっては適さないブロッキング剤もあります。またブロッキングが強すぎても,検出したいタンパク質が染色できなくなります。

ブロッキング時間等,条件を調整してみましょう。

なおスキムミルクやBSA以外のブロッキング試薬としては,下記のような市販製品があり便利です。

植物成分由来のブロッキング試薬  | Animal-Free Blocker | フナコシ (funakoshi.co.jp)

下記のRockland社製品は特に蛍光標識抗体を使用してウェスタンブロッティングを行う際に有用なブロッキングバッファーです。

蛍光標識抗体を用いたウエスタンブロットに最適化されたブロッキングバッファー | Blocking Buffer for Fluorescent Western Blotting | フナコシ (funakoshi.co.jp)

また後述しますが,リン酸化タンパク質の検出には専用試薬を使用すると良いでしょう。

PhosphoBLOCKER™ ブロッキング試薬 | リン酸化タンパク質のWB用ブロッキング剤 | コスモ・バイオ株式会社 (cosmobio.co.jp)

チェックポイント❣

✓ ブロッキング時間の確認と調整
✓ ブロッキング剤の成分確認
✓ 市販の各アプリケーションに最適化されたブロッキング剤を使用する

そもそもきちんとメンブレンに転写されている?

当然のことですが,ゲルからメンブレンにタンパク質がきちんと転写(トランスファー)されていなければ,染色できるわけがありません。

転写効率をサッと見るのに便利なのが,「Ponceau-S(ポンソーS)」という染色剤です。化学的に簡単に染色ができ,その後の脱色も可能,抗体との反応性にも影響を与えないという素晴らしい試薬です。

ウエスタンブロット用転写タンパク質染色液Ponceau-S | ポンソーS染色液 | フナコシ (funakoshi.co.jp)

ウェスタンブロッティングに慣れてくると省略しがちなステップですが,できれば毎回確認すると安心して抗体反応に移ることができますので,おススメです。

メンブレンに転写されない原因としては,

  • ゲルとメンブレンがきちんと密着できていない(泡などの混入)
  • 転写条件が不適切

などがあります。転写条件とは,転写バッファーや転写時間です。このうち転写バッファーは,転写したいタンパク質の性質(塩基性や酸性の強さ)や分子量によって,その組成を若干調整する必要があります。この場合は特にメタノールの濃度に注目してみて下さい。高分子量のタンパク質の場合,メタノール濃度が高いとゲルから出にくくなるために転写効率が落ちます。

チェックポイント❣

✓ ポンソーS(Ponceau-S)を使って,転写効率を確認
✓ トランスファー時間を確認・調整
✓ 転写条件を見直す(転写バッファーや時間)

過剰な洗浄

実験室やラボベンチはキレイにしておくのがベストですが,メンブレンは「キレイにし過ぎても」よくありません!

過剰な洗浄は抗原,抗体等の脱離につながります。

洗浄は「丁寧に」,だけど「ホドホドに」。難しいですが,うまくコントロールしましょう。

試薬は劣化していませんか?

ELISAトラブルシューティングの時と同様になり,ほぼ「再掲」となりますが・・・試薬は,タンパク質(サンプル,抗体,酵素)と化学物質に大きく分けられます。タンパク質は特にそれまでの保管状況の影響を受けやすいため,取り扱いには注意が必要です。

劣化の要因として,

①凍結融解の繰り返し

⇒冷凍と解凍を繰り返すことで,タンパク質にダメージが生じます。あらかじめ必要量を分注して冷凍保存し,必要な時に必要な分だけ解凍するようにしてください。

②希釈した状態での保管

⇒タンパク質濃度が低い状態での保管も,タンパク質へのダメージの要因となります。必要な試薬は必要時に調製(用時調製)してください。

③保存時に加えた添加剤の影響

⇒例えばHRP標識抗体にアジ化ナトリウム(NaN3)のような防腐剤を入れると,HRPが失活して反応しなくなります。標識物に影響を与えない添加剤を使用しましょう。

④単純な経時劣化

⇒適切な保管であっても,時間経過に伴って製品は劣化します。新しい試薬を購入・用意しましょう。

感度改善試薬を使用してみよう!

バンドが薄い場合は,抗体自身の反応性が低いことが理由になっている場合もあります。このような場合は,市販の「感度改善試薬」を使用して,バンド濃度を上げることを試してみましょう。

例えば,下記のような製品があります。抗体希釈液として使用するだけなので,プロトコル変更が最小限となり,簡単です。

Can Get Signal® Immunoreaction Enhancer Solution – 製品情報 | バイオ事業総括部/バイオプロダクト営業部 (toyobo.co.jp)

ウエスタンブロット,ELISAなどのシグナル増強試薬 | Signal Booster (シグナルブースター) | フナコシ (funakoshi.co.jp)

ストリッピングが原因

ウェスタンブロットを行ったメンブレンから,反応に使用した抗体(1次抗体・2次抗体)を除去(=ストリッピング)して,別の抗体を反応させることをリプロービングと言います。ストリッピングの作業によっては,メンブレンから目的タンパク質が脱落してしまうことがあります。できるだけストリッピングとリプロービングは避け,もし必要な場合は迅速かつ温和に作業するか,ストリッピング専用試薬(ストリッピングバッファー)を試してみましょう。

バックグラウンドが高い

比較的対処しやすいトラブルの一つです。下記のポイントについて注意してみましょう。

ブロッキングが不十分,あるいは不適切

ブロッキングが不十分だと,非特異的に抗体がメンブレンに付着してしまうために高バックグラウンドの原因となります。

ブロッキング条件の検討(例:ブロッキング時間を延長あるいはオーバーナイト(一晩)を試みる)を行ったり,下記のような市販試薬を使用するのも良いでしょう。

PVDF Blocking Reagent for Can Get Signal® – 製品情報 | バイオ事業総括部/バイオプロダクト営業部 (toyobo.co.jp)

また特にリン酸化タンパク質を検出する時ですが,スキムミルクをブロッキングバッファーに使用していませんか?

スキムミルク中に含まれる成分の「カゼイン」はリン酸化タンパク質です。使用する抗体の特異性によってはスキムミルクの使用でメンブレンが真っ黒になってしまいます。
抗体によってスキムミルクが合わないこともあるので,このような問題が生じた場合にはスキムミルク以外のブロッキング剤,あるいは専用の試薬を使用するとキレイに検出できる可能性が高まります。

PhosphoBLOCKER™ ブロッキング試薬 | リン酸化タンパク質のWB用ブロッキング剤 | コスモ・バイオ株式会社 (cosmobio.co.jp)

チェックポイント❣

✓ ブロッキング時間の確認と調整
✓ ブロッキング剤の成分確認
✓ 市販の各アプリケーションに最適化されたブロッキング剤を使用する

洗浄が不十分

免疫組織染色,ELISAの際もそうですが,インキュベーション後の各「洗浄ステップ」での操作が不適切で,抗体や試薬が残存すると高バックグランドの原因となります。

洗浄に使用しているバッファーが通常のPBSの場合は,界面活性剤(Tween-20)を0.05%含めたPBSに代えて洗浄してみたり,これでも不十分な場合はTween-20の濃度を上げてみたり(0.5%程度辺りまで)して,バックグラウンドの低下を試してみましょう。

また洗浄時間,洗浄回数を増やすことも有効ですが,過剰な洗浄は抗原,抗体,試薬類の脱落にもつながるため,注意しましょう。

チェックポイント❣

✓ 洗浄ステップの確認(時間を長くしたり,回数を増やすなど)
✓ 洗浄バッファーの成分確認

抗体量が多すぎる

一次抗体,二次抗体ともにその量が多すぎると,非特異的吸着によりバックグラウンドの増加につながります。

抗体濃度の条件検討をしっかりと行いましょう。低濃度の抗体でも十分に検出できるのであれば,その方が経済的でもあります。

露光時間が長すぎる

化学発光で検出する場合は,露光時間が長すぎるとバックグラウンドが高くなることがあります。露光時間の短縮で改善することがあります。

バンドがたくさん出る,想定よりもバンドの位置がずれる

この問題は,主に抗体,サンプル処理法,また細胞生物学的な理由で生じます。順番に見ていきましょう。

抗体の特異性,品質の問題

ポリクローナル抗体はその特性から,様々なエピトープに反応します。そのため目的外のタンパク質に反応(=非特異的反応,ノンスペ)してしまうことがあります。作成時のエピトープが,対象タンパク質に特異的で短めの物が使用されているものを選んだり,未精製抗体であれば精製するなどで解決する可能性があります。

修飾やプロテアーゼによる切断が起きている

よく「ポジティブコントロールとして使用したリコンビナントタンパク質よりもサンプルの方が高い位置にバンドが出る」と言った話があります。このような「分子量のずれ」は,各種修飾(糖鎖修飾,リン酸化,メチル化など)の影響を考慮しましょう。例えばリコンビナントタンパク質が大腸菌で作られていて,実際の検出サンプルが哺乳類だったとしたら・・・大腸菌では糖鎖修飾を含めた翻訳後修飾がほとんどされないため,分子量は当然ずれてきます。

サンプルの分子量が想定よりも低くなった場合は,プロテアーゼ類によって切断されている可能性があります。サンプルにプロテアーゼインヒビター(阻害剤)を加えて,再度試してみましょう。

それでも問題解決しないようなら・・・

何をしても解決できない・・・そういった事も十分にありえます。

IHC(免疫組織染色)トラブルシューティングガイドでも記載しましたが,同じメーカーの同じ商品コードの抗体でも,ロットや採取個体の違いでも反応性の変化は発生します。(もちろんメーカーも,ロット間差が無いようにQC;品質管理テストを通してはいます。)
このような場合は購入した販売店や輸入元の代理店にトラブルシューティングを依頼しましょう。

各メーカー,トラブルシューティング用の記入用紙を用意していることがあったり,無い場合でも代理店から確認項目の連絡が届きますので,その内容に沿って情報記入をして提出しましょう。

最後に

いかがでしたでしょうか。ウェスタンブロッティングもアッセイ内に多段階の抗原抗体反応と化学反応を抱えているため,トラブル時には総合的に要因を考え,一つ一つ原因をつぶしていく必要があります。

こちらをご参考頂き,お気づきの点がありましたらお問い合わせフォームよりご連絡ください。